第9回スポーツデータ解析コンペティション審査会に参加しました!
本エントリは、「スポーツアナリティクス Advent Calendar 2019」の25日目です。
本エントリでは、12月21日~22日に統計数理研究所で開催された「第9回スポーツデータ解析コンペティション審査会」の参加報告、および審査会で発表された研究内容についての紹介をしたいと思います。
目次
スポーツデータ解析コンペティションとは?
基本情報
2009年に日本統計学会の分科会として設立された、日本統計学会 スポーツ統計分科会が中心となって年1回開催されているコンペティションです。今回で9回目の開催となります。
分科会への入会について
日本統計学会スポーツ統計分科会には日本統計学会員でなくても入会可能です。ご興味のある方は以下のサイトより当分科会へ是非ご入会ください。
開催規模
毎年参加者が増え続けており、前回(第8回)では、日本全国から80チーム、延べ367名の参加がありました。そして今回(第9回)も全部門合わせて87チーム参加となっています!
開催スケジュール
毎年6月~7月頃に発会式と申込の受付が始まります。今回は7月31日が申込締切で、11月10日までに研究成果の説明資料(スライドor論文等のPDF)を提出するというスケジュールになっていました。
研究成果は主催者によって審査され、12月21日~22日の審査会で口頭発表をするチームとポスター発表をするチームに振り分けられました。
開催部門
第9回の部門は、以下の6つです。
- 野球部門
- サッカー部門
- バスケットボール部門
- フェンシング(エペ)部門
- インフォグラフィック部門
- 中等教育部門
提供されるデータ
各部門で提供されるデータは、以下の通りです。
- 野球部門
NPB(日本プロ野球)レギュラーシーズン2016年~2018年(3年分)の1球データ、1打席データ、1試合データ、プロフィールデータ - サッカー部門
2018年明治安田生命J1リーグ戦45試合(5節分)のプレーデータ、トラッキングデータ、シュート詳細データ、出場選手データ - バスケットボール部門
2017-18 / 2018-19 シーズンのBリーグ2219試合の Play by Play データ、BOXスコア、試合情報、各種マスタ - フェンシング(エペ)部門
男子エペの試合動画(国際大会中心、個人戦の決勝トーナメント)約15分×約100本、試合に紐づく大会名、収録日、スコア - インフォグラフィック部門
野球orサッカーorバスケットボールorフェンシングのいずれかの部門と同様のデータ - 中等教育部門
野球andサッカーのサマリーデータ、もしくはバスケットボール部門と同様のデータ
野球、サッカー、バスケットボールのデータはデータスタジアム株式会社から、フェンシングのデータは公益社団法人日本フェンシング協会から提供されています。
これだけ豊富なデータや映像が提供されるコンペティションは他にはなかなか無いと思います!
ルールと審査基準
コンペティションのルールとして、
・応募チームは必ず書面審査に研究成果を提出しなければならない
・期間終了後にデータ削除証明書を提出しなければならない
・提供されるデータは本コンペティション以外には原則使用できない
…といった項目があります。
一方で、期限内に提出した研究成果については、別途「データ利用申請」の手続きを行って承認されることで、卒業論文や学会発表で使用可能となっています。
また、審査基準は以下の通りです。
- 問題設定 「扱う問題の重要さ」「問題のタイムリーさ」
- 解決度合い 「完成度」「結果の実用性」
- 手法 「分析の適切さ」「分析の難易度」
- プレゼン 「プレゼンのわかりやすさ」
- その他 「視点の面白さ」
以上がスポーツデータ解析コンペティションの基本情報になります。
ここからは、審査会当日の参加報告をお届けします!
審査会の開催場所は、統計数理研究所です。
こちらは研究所内に用意されたバナーです。
記載されている通り、審査会は参加無料&申込不要(コンペティションに参加していない一般の方でも来場OK)なのですが、一般にはあまり知られていないようですね…。
※2日目の野球の口頭発表には、某プロ野球球団の方もいらっしゃっていました!
そして発表会場には300インチ(!!!)の巨大スクリーンがあります。
大きさが分かりにくいと思うので、比較対象として500mlペットボトルをスクリーンの真下に置いています。サイズ感伝わりますかね?!
この大きさのスクリーンでスポーツの研究発表をできる機会もなかなか無いのではないでしょうか!?
審査会1日目 (12月21日)
1日目は、
- バスケットボール部門 3件
- フェンシング(エペ)部門 3件
- ポスターフラッシュセッション 27件
- ポスターセッション
- サッカー部門 6件
の審査が行われました。
各部門の発表を簡単に紹介させていただきます!(以下、敬称略)
バスケットボール部門
-
B.LEAGUEにおける客観的選手評価基準の解析
伊藤和輝(東京理科大学),小林正弘(東海大学),中川智之,松澤智史,田畑耕治(東京理科大学)
・ボックススコアの項目から客観的総合指標(OGI)を導出した
・既存指標(PER)による評価を行い、強い相関があることを確認した
・チーム所属選手のOGIがチーム勝率を予測するのに有用であることを示した
・各選手の特徴の数量化や、チームの強みや課題の把握に繋がる可能性がある
-
3Pシュートにおける解析精度向上のための効率的データ収集
保母将希,竹原大翼,小林景(慶應義塾大学)
・既存データを用いた3Pシュートの成否を予測するモデルを構築した(ロジスティック回帰)
・追加データを取得することで3Pが入るかどうかの予測精度の向上を試みた
・相手からの距離(ワイドオープン、オープン、タフ)、シュート位置を追加データとして自ら取得した
・データを取った3試合の情報を元に、他の試合の欠測を補完して比較した
-
Bリーグにおける Four Factors の有用性の検証とその拡張 ~ チームの評価から選手個人の評価まで ~
塚田憲哉,金子菜摘,保坂雛子,植塁(横浜市立大学),落海望(湘南工科大学),秋元良友,小泉和之(横浜市立大学)
・NBAのデータを基に作成されたFour FactorsのBリーグでの有用性を検証した
・Four Factors内のFTA係数をBリーグのデータを基に算出して改良した
・個人版Four Factors である、Personal Four Factors、総合評価指標GPFFを作成した
・GPFFを用いてチーム勝率の予測、選手移籍の評価やシミュレーションができる可能性がある
フェンシング(エペ)部門
-
Pretrained Deep Learningを用いたフェンシング剣先軌跡の簡易検出
藤澤孝太,北島栄司,吉田成帆,宮田龍太(琉球大学)
・通常のカメラで撮影した試合動画と、通常のPCで動く軽量なDeep Learningで剣先検出に取り組んだ
・PoseNet / YOLOv3 / TrackNet の3つの物体検出用Pretrained Deep Laearningを適用
・TrackNetである程度検出することができたが、コートの色や光の具合で取りこぼしや誤検出も発生した
・TrackNet Labeling Tool を用いた転移学習で精度を改善できる可能性がある
-
フェンシングにおける得点の要因分析
井戸潤之祐,朝生駿,深井亮登,深井宏剛,中川智之,松澤智史,田畑耕治(東京理科大学)
・元動画を分割&パノラマ化して解析用の動画を作成し、PoseNetで骨格推定を行った
・映像からピストの範囲を求め、そこから左右の選手を区別してデータ化した
・AICに基づいてベルヌーイlogitモデルを採択し、変数増減法で変数選択を行った
・両選手とも、elbowとwristが得点に関わる要因として推定された
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フェンシングにおける選手間相互作用を考慮した姿勢予測
本田悠太郎,川上玲(東京大学)
・選手の姿勢を予測し、動きの予兆や特徴的な動きの検出を行った
・フェンシングでは相手選手が存在するため、相手との相互作用を考慮した姿勢予測モデルを作成した
・フェンシングに最適化するために、利き腕利き脚に基づく関節点の分類を行い、HRNetで取得した
・連続した90フレームの最初の30フレームからその後60フレームの関節点を予測した
・相手選手まで考慮することで、動きの変化を捉える予測モデルの精度が向上した
・相手の動きが行動決定にどう影響するかを特定できる可能性がある
サッカー部門
-
サッカーネットワークのアキレス腱
土屋智央,渡邊駿介,一ノ瀬元喜(静岡大学)
・どのプレイヤーを機能不全にするとパスネットワークに深刻なダメージを与えるか?
・攻撃(ハブ削除)とエラー(ランダム削除)でノードを削除し、パスネットワークの頑健性を調査した
・全チームスケールフリー的な特徴を持っており、アキレス腱が存在した
・川崎Fが最も特徴的で、攻撃(ハブ削除)への頑健性が高かった
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トラッキングデータからの戦術アクション項目の開発
・トラッキングデータから、ボール保持者以外の戦術プレーを測定する
・攻撃と守備の戦術アクション34項目を開発した
・戦術アクション項目は機械学習にも適用可能
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攻撃から守備の切り替え局面における守備の効果度の測定指標の提案
髙嶋羽也斗,田原康寛,松岡弘樹,安藤梢,西嶋尚彦(筑波大学)
・守備の効果度にプレスレベル、マーキングレベル、パスカットレベルの3つを定義
・プレスレベル=スピード×方向
・マーキングレベル=アタックチームの領域影響度の値
・パスカットレベル=パスカット可能度×パス価値
-
サッカーにおけるボロノイ図を用いたスペース利用能力の推定と定量化
・ボロノイ領域を用いて、スペースの利用の度合いを定量化した
・「スペース利用」のチャンスへの有効性をロジスティック回帰を用いて示した
・「スペース利用」能力が高い選手をポジション別に示した
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サッカーにおける守備状況を評価するための回帰式の構築~ライン突破の阻止に着目して~
小泉洋生,鈴木健介,内藤清志,中山雅雄,平嶋裕輔(筑波大学)
・守備ラインを突破されない状況ができているかを、良い守備の評価指標と定義し、各ラインにおける守備ライン突破成否に影響する主要因を明らかにした
・全ラインに共通する要因と各ラインの特性を⽰す固有の要因を明らかにした
・ライン突破阻⽌成否を基にした守備状況を評価する為の回帰式を構築した
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運動モデルによる最小到達時間の定量化とスペースの評価
・スペースを分割するのではなく、最少到達時間で重み付けした
・スペースの安全度とスペースの空白度の評価を行った
・守備と攻撃を同じ枠組みで評価することが可能
・運動能力係数を選手別に設定することで、より正確なスペース評価ができる可能性がある
審査会2日目 (12月22日)
2日目は
- ポスターフラッシュセッション 30件
- ポスターセッション
- 野球部門 9件
の審査が行われました。
さすが野球はデータ分析人口が多いですね!
※以前は1日で全部門の審査を行っていましたが、部門数の増加と参加チーム数の増加によって1日で審査を終えることが難しくなったため、2日制になりました
ポスター展示も沢山ありました!(※ポスター発表の時間帯は大混雑!)
野球部門
-
LSTMを用いた投手の投球予測
・時系列のディープラーニングで球種とコースを予測するモデルを構築する
・打者と投手の戦術行動項目を開発し、予測に用いる要因を選定した
・LSTMモデルを適用し、球種45%、コース51%の精度のモデルを構築した
・投球パターンのフィードバックに使える可能性がある
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横浜DeNAベイスターズにおける打順の最適化に関する研究
坂光秀文,原尚幸(同志社大学)
・9番に野手を起用するメリットとデメリットを定量的に検証した
・共変量調査を行った結果、9番に野手を起用した効果は特に無し
・シミュレーションを用いて最適打順を決定した
・総合力で勝負するタイプの投手と対戦する場合は、9番に野手を起用した最適打順が得られた
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プロ野球の打撃における参照点依存性の検証
家舗弘志,中園善行(横浜市立大学)
・打率.300の前後でスイング確率について有意な差が確認された
・凡退すると打率.300を切る打席ではスイング率が低くなる
・安打を打つと打率.300を超える打席ではスイング率が高くなる
・合理的な意思決定が求められるプロでも参照点の影響から逃れられていない
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潜在クラスマルコフモデルによるプロ野球先発投手の失点予測に関する一考察
上原諒介,保戸田未桜,松元琢真,藤波英輝,大堀祐一,青木章悟,莫鈞貽,清水瑛貴,野中賢也,後藤正幸(早稲田大学)
・先発投手を続投させた時の期待失点を予測した
・対戦毎に異なる遷移行列を用いてイニング毎の期待失点を算出するモデルを作成した
・失点イニングのみに限定すると比較手法よりも高い精度を示した
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ゴロで打ち取るための配球と守備位置に関する研究
木下悠太,原尚幸(同志社大学)
・ゴロで打ち取るための要因を20通りのケースで明らかにした
・内やポジション別でゴロ打球方向を予測するモデルを構築した
・4方向(ファースト、セカンド、ショート、サード)の予測精度は約60%
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カーネル密度とGLMMを用いた守備評価モデルの提案
今田一希,山本義郎(東海大学)
・「アウトを取ること」に注目した、解釈と比較の容易な守備評価モデルの提案
・GAMを用いたアウト確率の密度推定と、GLMを用いた影響要因の推定を行った
・視覚的な守備範囲の評価と比較ができるout_probを作成した
・選手及び球団の守備を評価する指標EOAAを作成した
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スポーツ記者がいう流れと試合展開との関係性の分析
秋元樹,後藤潤,石黒秀幸,山口雄大,安井清一(東京理科大学)
・「流れ」の記載試合の要因分析を行い、定義付けを行った
・「流れがある試合」の特徴を抽出した
・投手の差や野手のプレーのミスが少ない試合
・球団間の攻撃の巧さに差がある試合
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真っ向勝負かかわすのか:打席単位のトピック分析
・確率的トピックモデルを用いた野球における配球傾向の抽出
・打者/投手属性や試合状況、打撃結果と配球の関係を明らかにした
・特定の打撃結果に共通する配球パターンが存在することが分かった
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Change Finderを用いた試合の流れの抽出と戦評の自動作成
・勝利確率の変化に対してChange Finderを用いて変化点の検出を行った
・検出した変化点で適切なシーンが抽出できていることを確認した
・流れの変化という観点から簡単な戦評を自動作成した
・1打席毎のデータではなく1球ごとのデータにすることで、分析精度が向上する可能性がある
まとめ
審査会のレポートは以上です。
いずれも書面審査で高い評価を得て口頭発表に辿りついただけに、レベルの高い内容で面白かったです!
今回の審査会で高い評価を受けてた作品については、2020年3月上旬~中旬(予定)に受賞者講演会にて再度発表いただく機会があります。もしこのエントリを見て興味を持った方がいらっしゃれば、ぜひ受賞者講演会にお越しください!
(こちらも申込不要、参加無料です)
最後に
スポーツアナリティクス Advent Calendar 2019 全25人での完走万歳!
正直、1人が複数の記事を書かないと完走できないのでは?と思っていました。やはり今年から始まったSports Analyst Meetup、そして #spoana の盛り上がりがあってこそ成り立った企画だと思います。
2020年も皆でスポーツアナリティクスを盛り上げていきましょう!
良いお年を!